BLですよ。
準備OK?
では、どうぞ。
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部員がたった二人の柔道部には、その規模にはもったいないくらいのマネージャーが存在する。
彼女はどんな仕事も文句一つなくこなし、交友関係も良好で、飛びぬけて美少女というわけではないが、温かみのある笑顔が印象的な可愛らしい少女であった。
実際のところ、このマネージャーとお近づきになりたいがために柔道部入部を希望する下級生の数はそれなりにいる。
今日部室の前に現れた少年も、そのうちの一人であった。
「あの……柔道部を見学したいんですが」
「はーい! あ、もしかして入部希望者?」
「お、押忍! よろしくお願いします!」
新たな仲間の加入に、彼女の顔がほころぶと、彼もそれにつられて頬を緩める。
「ちょっと待っててね、今うちの主将に話をしてくるから」
「あ、いえ、自分も行きます!」
彼女が背を向けた瞬間、入部希望者の少年は抑えていたにやけ顔をそのままに後をついて行った。
「不二山くー……」
「ちょっ嵐さんタンマ!」
「なんだ新名、もう根を上げたのか?」
「そうじゃないって……か、顔! 顔近いって!」
「縦四方固めなんだから、当たり前だろ」
「そういうことじゃなくって……あ」
部室の中では、部員二人が寝技の練習中であった。
心得た表情で、彼女は静かに扉を閉める。
「ごめんね、今ちょっと取り込み中だから、少し待ってくれる?」
「……? は、はぁ……」
胸に抱えていた部誌をそっと脇に置き、彼女は再び静かに、今度は10センチほど扉を開くと、そこから中を覗き込んだ。
相変わらず、畳の中央では部員の二人──嵐と新名が寝技の真っ最中である。
「新名、顔赤いぞ?」
「あ……嵐さんが近づくから……」
「……練習に集中しろ」
「ズリィよな……アンタのそれ」
寝技をかけたまま、嵐が新名の頭を撫でたあたりで、彼女は背後に自分と同じようにして部室を覗き込んでいる入部希望者の気配を感じ取った。
ふとそちらに視線をやると、なぜだかぎょっとした表情のまま固まっている。一体どうしたのだろうか。
その疑問は、中から聞こえてきた新名のくぐもった呻き声により逸散される。
「あ、嵐さん、オレ……」
「続きは終わってからな。じゃあ、次の練習行くぞ」
「押忍!」
慌てて中を見てみると、二人は既に立ち上がって、次の練習メニューに取り掛かろうとしているところだった。
しまった見逃した。と心の中で呟いてから、一呼吸置いて彼女は扉を全開にする。
「不二山くん、ちょっといいかな? 入部希望者が来てるんだけど……」
声に振り向く嵐は怪訝な表情をしている。先程あったことなど微塵も感じさせないいつもの嵐だ。
「入部希望者? どこにだ?」
「だからここに……あれ?」
彼女が後ろを指差すと、既にそこには誰も居なかった。
ただ、部室の外から「やっぱいいっすごめんなさいー」と、聞こえなくもない叫び声が届いた。
「……は~ぁ、どうしてみんないつも途中で帰っちゃうのかなぁ……」
「練習がきつそうだと思って途中で諦めているんじゃないか?」
「それだ! もっと楽しそうに見える練習メニューを組んで……あ、でもそれで練習量が減っちゃったら元も子もないよね……」
「そうへこむな。いつかきっと、柔道を本気でやりたいってやつが来てくれるはずだ」
「不二山くん……うん、そうだね! わたし、頑張るよ!」
「おう、頼むぞ、マネージャー」
嵐の激励に笑顔で返し、彼女は部誌を拾い上げて仕事に入る。いつかきっと、この柔道部をもっと大きな部にしてみせる……そのことを誓って。
そんな青春に燃える二人の後ろで一人筋トレをしながら、新名は先程の感触を思い出しひそかに唇に触れた。
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これは嵐ニナなのか? 深読みしてください(笑)バンビが腐っぽくてすみません。仕事は真面目にやってます。
動じないお父さんな嵐×ドギマギヘタレなニーナかわいいよ!
ちなみに『縦四方固め』はまんま押し倒してるような技です。
[11回]
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