BLですよ?
おkですね?では、どうぞ。
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琥一が家に帰ると、スパイスのいい香りがただよってきた。
「お、今日はカレーか」
呟き、少し顔がほころぶ。肉の入った料理はたいてい何でも好きだった。もちろんカレーも、(肉無しカレーでない限りは)琥一の好物の一つだ。
「おい、ルカ……」
ダイナーのテーブルのひとつにカセットコンロを置き、そこでカレー鍋をコトコトと煮詰めながらソファに座ってそれを見ている弟は、何故か肩をがくりと落としていて、琥一が帰ってきたことにすら反応していない。呼びかけても、普段ならお帰りなり何なり言ってくるはずなのに。
「オイ、どうしたよ?」
仕方なく琥一は傍まで歩み寄り、平べったいカバンを対面側のソファに放り投げ、琉夏の肩を叩くと、彼はやっと顔を上げた。
琥一を見上げた琉夏の顔は、あからさまに沈んでいた。
「ゴメン、コウ……」
「何だよ、何かあったのか?」
再び俯き、カレー鍋をじっと見つめる琉夏のことをさすがに怪訝に思い、琥一は弟の隣にどっかりと座り込むと、横から顔を覗き込む。
ちらりと視線を下に向ける。鍋の中では茶色に輝くとろりとした液体と、大きめにカットされた牛肉と野菜が、美味しそうな湯気を立てている。
もしかして、料理に失敗したのか、とも思ったが、それはなさそうに思える。こんなに美味しそうなのに。
琥一は鍋に放り込んだままだったおたまを取り、そこについていたカレーをひと舐めしてみた。スパイスがよく効いていて、琥一の食欲を刺激する。
「別に味は悪かねぇぞ」
「うん……」
「じゃあ何だよ」
「あのさ……ビーフカレー、みなこちゃんに教わって作ったんだよ」
見りゃ分かる。そう返そうとしてやめる。琉夏がぽつぽつとだがやっと話す気になっているのだ。とりあえず、最後まで聞いてみて、それからだ。
「作ったのはいいんだけどさ……俺、大事なこと忘れてて」
「何を」
続きを促すと、琉夏は再び顔を上げた。だが、浮かんでいた笑顔は泣きそうにも見えた。
「……米が無かったんだよね」
琥一は言葉を失った。
兄弟二人暮しのこの家は、経済的にも苦しい立場にある。主食となる炭水化物の摂取は、琉夏が主にホットケーキ、どちらかといえば洋食派の琥一はパンで摂ることが多い。
それゆえ、米を切らすことがあっても二人は特に気にすることなく、気がついた時に買い足すようにしていたのだ。
そしてカレーライスにするための肝心のライス部分が無いことに、カレーを作ってから気がついたのだ。
「……」
「ゴメン、コウ」
「……アレだ、ほら」
眉尻を下げて何とも情けない顔をする弟の髪をくしゃりと撫でる。
「ホットケーキミックス、まだあんだろ」
「あるけど……?」
何でいきなりホットケーキ。と言いたげな琉夏から視線をそらして琥一は立ち上がり、
「それ、焼くぞ」
答えを聞かず、ホットケーキを焼くための準備に取り掛かった。
「うお、意外とイケる」
「ま、食えねえこともねえだろ」
カレー用の大きめの皿の上には、これまた大きめに焼いたホットケーキが二枚ずつ(ちなみに残りは別の皿にまとめて重ねてある)。
深めの皿にはカレーを入れて、二人はホットケーキをちぎってはそこに漬けて頬張っていた。
ふんわりとした食感と粉にあらかじめ入っていた甘味料が少し気にはなるが、ナンのようなものだと思えば意外と平気だった。
「でも、どっちかっていうと、スナックって感じだな」
「あぁ?」
「腹にドカンって来ないから、あんまりご飯って気がしない……」
「菓子ばっか食ってる奴が言うか、それ?」
ホットケーキの切れ端を持ったまま、琥一が呆れた声を出す。普段からホットケーキを主食にしている奴に言われたくはない。
「だってさー、やっぱりカレーって言ったらライスだろ?」
「……だな」
琉夏はパンよりもご飯派なのだ。普段の主食のせいで忘れがちだが。
残りの欠片を腹に収めると、琥一は横に座る琉夏に向き直った。
「確かに、もっとガツッとしたもんが食いてぇ気分ではあるな」
「さすが、肉食系」
「ウルセー」
指についた油分を舐めたその手で、琉夏の顎を掴みぐいと引き寄せる。
「責任とって、飯の代わりになれよ」
「あれ? 俺、コウに食われちゃう?」
唇が触れそうな距離まで顔が近づいてもいまだとぼけたままの琉夏の口元、カレーが少しついている箇所に、噛み付くような琥一のキスが落ちた。
「しょうがねぇな、じゃあご飯の代わりだ」
琉夏は抵抗せずそれを受け止め、ソファに沈んだ。
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このビーフカレーネタには萌え転がりました。
お兄ちゃんに作ってあげたいんですね、分かります。
しかしカレーで欲情するのはどうなんだろう。
[5回]
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