BLだけどなんともないぜ!
おkですね?ではどうぞ。
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部活が終わり、帰り支度も大急ぎで済ませると、新名は校門前へと走った。
今日もだ。今日もきっと、あの二人が一緒に帰る。そんなことさせない。
校門前に見慣れたツンツン頭の先輩を見つけると、新名はあらん限りの声で叫ぶ。
「嵐さん待った! 俺も一緒に帰る!」
「新名?」
練習の疲れが残っているのか、それほど焦っていたのか、新名は息を切らせながら先輩──不二山嵐のもとへと走りこんだ。
「また二人だけで帰るなんてズリイ……って、あれ? みなこさんは?」
「小波ならいないぞ」
嘘。ポツリと呟いて辺りを見回してみる。
物珍しそうな生徒達の姿がちらほらと見受けられるだけで、彼ら柔道部のマネージャーの姿はどこにもない。
「……あれ、なんで?」
「別にいつも一緒に帰ってるわけじゃないからな」
あっさりとそう答えられて、新名は溜息を盛大につきながらその場にしゃがみ込んだ。
「え~……マジかよ~もう、焦って損した~」
「残念だったな?」
「……別に、そういうんじゃないっす」
ちらりと嵐の顔を見上げると、彼は珍しく意地悪そうな笑みを浮かべていた。きっと、彼女が居ないことを残念がっていると思ったのだろう。
「ただ、二人に置いてかれるのが嫌だっただけですから」
「そうなのか」
何とはなしにさらりと言う嵐に、ますます情けない気分になる。
それは新名が柔道部に入部してしばらく経った頃のことだった。
最初は練習が嫌で嫌で逃げまくっていた彼だったが、それすらもトレーニングの一環として組み込まれていたと知ったことで、なんだかもう逃げるのがバカバカしくなり、そこからは真面目に部活動に取り組むようになった、ちょうどそんな頃。
新名がきつい練習を終えて帰途につこうとしたとき、彼は校門前で連れ立って帰る嵐と彼女を見てしまった。
それははたから見てもお似合いの二人と言うしかなくて、それまで胸に溜め込んでいたものが爆発しそうになって──気がつけば新名は二人の前に駆け込んでいた。
そして「俺も一緒に帰る」と叫んでいた。マネージャーの彼女は笑いながら承諾し、嵐の方はなんだか微妙な顔をしていたが、それでも構わなかった。
そこから、二人が帰ろうとするところにギリギリで新名が割り込んできては三人で帰る、というのが、はば学の校門前の名物のようになりかけていたのだ。
その時のことを思い出し、しゃがみ込んだまま新名が愚痴る。
「……俺だって嵐さんと一緒に帰りたかったのに」
「なんだ、だったらそう言えばいいのに」
俺はてっきり小波と帰りたかったのかと思った。そう言う嵐に、思わず立ち上がって首をぶんぶんと横に振る。
「だって、俺が追いかけてたの、嵐さんっすから! 前まで逃げてばっかりだったけど、俺マジでこの人に追い付きてえって思って……」
「俺を、追いかける?」
新名にとっては、一世一代の告白にも近い言葉。
だけども嵐はそれを無表情で繰り返し、そして──
「そうか、追いかける……か」
次に浮かべたのは、かつて逃げる新名を追い詰めるときと同じ、彼女に言わせれば『悪い顔』と呼ばれるあの笑顔。
「嵐さん?」
「新名、俺は帰るぞ」
「え、ちょ……!」
返事も聞かず、嵐は走り出した。それを追って新名も走り出すのを確認すると、彼は一瞬だけ立ち止まる。
「一緒に帰りたきゃ、追いかけてみろ」
その時の嵐の顔がまた挑戦的で、新名はぐっと奥歯に力を入れた。
「……上等!」
絶対追いついて、追い越してやる!
憧れの人に追いつく、という分かりやすい目標を提示されて珍しく熱くなる新名。彼はこれも嵐が思いついた新手のトレーニングの一環なのだということには気付かないで居た。
「追いついたら、ご褒美にハグしてもらいますからね!」
「いいけど、それ以上がやりたくなるから、ほどほどにな」
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あれ?嵐←ニーナかと思いきや、最後の最後で嵐さんが本気を出した。何だよそれ以上って!
まあいいや。嵐さん天然だからな。
さて、ニーナは追いつけるのだろうか。多分ほどほどのところで捕まってくれる……かな?
[10回]
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